映画にもなった三島由紀夫の『潮騒』で登場する神島(鳥羽市)の監的哨。
正式には「陸軍伊良湖試験場観測所」と言い、渥美半島に1899年に作られた陸軍の射撃試験場から発射された砲弾の着弾点を観測するための施設です。
そして神島だけでなく、同じ鳥羽市の菅島、そして志摩半島の石鏡(いじか)の3ヶ所に作られました。石鏡観測所は建物の基礎がわずかに残るのみです。
1929年に建設された神島観測所は、3つの観測所で一番早く作られました。陸軍伊良湖試験場にも一番近い場所にあります。
鉄筋コンクリート2階建てで、屋上からは眺望が広がります。老朽化により鳥羽市は内部を立ち入り禁止にしましたが、毎日新聞の精力的な取材と発信により2011年より修築と周辺整備がおこなわれ、2013年から再び見学可能になりました。港から遊歩道があります。
監的哨の周囲には境界を示す陸軍の標柱が4本残っていて貴重ですが、周辺整備の過程で1本が倒されてしまったのは残念です。周囲には無線用の鉄塔2基(1基倒壊、1基は基礎のみ)も残っていて、監的哨だけでなく面的に保存することが大切です。
大砲の性能が上がり、神島観測所を砲弾が飛び越えるようになると、菅島と石鏡(志摩半島)に新しい観測所が建設されました。どちらも1935年です。
菅島観測所は鉄筋コンクリート製の平屋建てで、階段で屋上に登ると眺望が広がります。
東側の壁よりほぼ中央にコンクリートの柱があり、観測機材を据えたと考えられます。
観測所の周囲には「陸軍用地」と刻まれた石製の境界標柱が4本残っています。斜めに傾いているのもありますが四方の境界を示す標柱がすべて残っているのは貴重です。建物の近くには土を掘り込んだ所もあり、戦争末期には本土戦の陣地としても使われていたことがわかります。港から観測所までは遊歩道がありますが、途中の道標が少ないので、訪ねる時は地図が必要です。
『三重の戦争遺跡(増補改訂版)』(2006年 三重県歴史教育者協議会 つむぎ出版)
三重県の戦争遺跡について写真や地図を豊富に使って解説しました。「空襲年表」や「三重に墜落したアメリカ軍機一覧」など多くの資料も掲載しています。A4版で314ページ。持ち運ぶのに重いのが難点ですが、地域の戦争遺跡を知るガイドブックとして活用して頂ければと願っています。
すでに出版社ルートでの販売は終了し、残部を高村書店(三重県亀山市東町。電話0595-82-0414)で販売して頂いていましたが、それも24年2月9日で完売しました。県内のどこかから残部が出てきましたら、お知らせします。